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五島を知る うどんすくい【新上五島町】

うどんすくい

鍋で茹でたうどんを直接すくい上げながら食べる五島うどん地獄炊き。あご出汁でいただいたり、生卵に生醤油や薬味を少し加えていただくのもおいしいですよね。

 地獄炊きを食べるとき、つるつるとした五島うどんをすくうのに便利な「うどんすくい」のことをご存じな方も多いと思います。今回は、新上五島町の有川地区における「うどんすくい」の話を少しご紹介したいと思います。

 この「うどんすくい」ですが、あの独特の形状のことや、いつ頃から使われ始めたのかはよくわかりません。町のことに詳しい70代の方に伺ってみたところ「確か4~50年位前に、”これは便利だ!”ということで町内にバァッと広まった」と言われていました。

 また、ある50代の方は「俺が子どもん時はなかったもんね」とも言われていたので、やはり50年程前に広まり始めたのかもしれません。 さてここで、「うどんすくい」のエピソードのひとつ。

有川地区に「太田」という集落があるのですが、ここで暮らしている70代の方が「もう随分昔の話だけど、私が子どもん頃は家の畑で育てた米や麦や芋を収穫するとき、家族や親せき総出で作業ばしよってね。そのお昼ご飯に地獄炊きば作ってよく食べよったとよ」と話してくれました。

 畑の一角に農具の保管を兼ねた休憩小屋が建てられていて、昼食時にはそこで火を起こし、大鍋で茹で上げたうどんを、うどんすくいでよそって食べていたそうです。

太田では、籠や笊といった農具や漁具などを竹を使って作っていたこともあり、「うどんすくいも一緒に作っていたのでは」ということでした。

 このような話は太田に限らなかったようで、「およ~、畑でうどんば、よう食いよったぁ」とか「ほら、〇〇さんがうどんすくいば作りよったじゃない」といろんな地域の人たちが話をしてくれました。

 うどんすくいは郷土料理ではありませんが、これに似た温かいものを感じてしまうのは、筆者だけではないかもしれません。

有川の町並みを一望できる鯨見山からの景色
家庭で食べるときの地獄炊き

松本さんとうどんすくい

 上五島の北部にある奈摩湾。その沿岸には2001年に国の重要文化財に指定された青砂ヶ浦天主堂、東シナ海に沈む夕日が見られる矢堅目公園や白草公園などの人気スポットがあります。

このほとりにうどんすくいを作っている方がいると聞き、話を伺ってきました。松本茂(87)さんは、うどんすくいを15年近く作られてきた方です。

 「近頃は体調を崩してしまってうどんすくいを作っていませんが、前職を退職したのを機に作り始めました。」と松本さん。

そのきっかけを伺ったところ、意外にも、うどんすくいの存在を知らなかったそうです。

 「町の土産品店で初めて見たんですが、〝こんな便利なものがあったんだ〟と、その時に知りました。」暫くして、自分も作ることができるのでは、と思い立ち作り始めたのがきっかけなんだとか。

 偶然にも、うどんすくいの材料となる竹が松本さんが所有する山に育っていたので、その竹を切り出し、そこから1年ほど乾燥させて、ようやく使うことができるようになるそうです。

様々な工程を経て作られる松本さんのうどんすくいですが、その特徴はうどんすくいの歯が8本ということ。「最初は5本で作っていたのですが、大工をやっている知り合いから〝うどんすくいの歯は8本がベスト!〟と教わったので、そこからは8本歯のうどんすくいを作っています。」と松本さん。

 実際に使ってみると、掬い取る量とお椀に入れるときに切れが良くとてもスムーズにうどんを食べられます。歯の数もさることながら、歯の長さや柄を握ったときの感触、そして、使用時にうどんすくいが滑って鍋の中に沈まないように柄の部分にストッパーを付けていることなど、松本さんの工夫が至るところでみられます。

「体調が戻ったら、また作り出したくなるかもなぁ」と笑顔の松本さん。「◯」に「茂」の焼印が入ったうどんすくいが、町の土産品店に並ぶのはもうすぐかもしれません。

 

【取材・執筆・掲載】fully編集部
【掲載先】fullyGOTO2022夏号

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